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「家賃が払えない」
そんな悩みは、自分には関係ない…と、ずっとそう考えて今日まで暮らしてきたことに、ゾっとする思いです。
「家賃滞納という貧困」(ポプラ社、太田垣章子)[1]の書籍レビューと感想をまとめていきます。
家賃が払えない―家賃滞納は“誰にでも起きる”
「家賃滞納という貧困」は、家賃滞納のさまざまな事例と、誰もが家賃滞納に陥ってしまう社会背景への洞察が、読みやすくまとめられた良書です。
「家賃を滞納してしまうのは、よほど収入の少ない人だろう」
「普通に働いて、普通に暮らしている人なら、家賃滞納はしないはずだ」
本書を読むまで、そんなイメージを持っていました。
しかし、著者・太田垣章子氏が、司法書士として目の当たりにした現実は、“家賃滞納は誰にでも起きる可能性がある”ことを示しています。
大手企業勤務のエリートが、家賃滞納で強制執行を受ける…そんな事例も
本書で紹介されている家賃滞納の事例は、実にさまざまです。
年金生活の高齢者、就職氷河期世代、元夫と離婚したシングルマザー…。そうした人々だけでなく、大手企業勤務のエリートが、家賃滞納で強制執行に至ってしまった事例もあります。
「裁判所です。相馬さん、いらっしゃいませんか?鍵開けますよ」(P25)
突然の強制執行を受けたのは、誰が見ても幸せそうな、平均以上の家庭。
「有名私立大学を卒業後、大手の広告代理店に就職。年収は同世代の中でも良い方で、28歳にしてすでに日本の平均年収を軽く超えていた」(P27)
そんなエリートが、家賃を滞納し、裁判所の強制執行を受けてしまう…。
こうした事例は、一つだけではありません。
大手建築会社勤務の、一級建築士の男性。
「大手メガバンクを定年まで勤め上げ、年に何回が海外旅行をするくらい、人生を謳歌してきた」83歳の女性。
平均よりも明らかに収入や資産のある人が、ちょっとしたキッカケで家賃滞納に陥ってしまう…。
普通の暮らしをしている人や、毎月の生活費が苦しい人であれば、なおさら、家賃滞納は“すぐ目の前に迫った危機”だと言っても、おかしくないでしょう。
もしも今、すでに家賃を滞納していたり、「滞納しそうだ」という状況であれば、一刻も早く解決手段の検討をはじめましょう。
家賃など、お金が払えない・返せない…となった時に、その返済を減額・免除する手続きがあります。
この手続きは、強制執行を受けてからでは行えないため、手遅れになる前に検討する必要があります。
詳しい解説は次の記事で行っていきます。
家賃滞納、強制退去…「他人事ではない」と言える理由
なぜ、“平均以上の暮らし”をしていた人が、家賃滞納に陥ってしまうのか…。その理由についても、本書では言及されています。
一人一人の事例を見れば、
「脱サラや起業に失敗した」
「体調を崩して働けなくなった」
「離婚して、別れた元夫が養育費を払ってくれない」
「高齢になって年金生活が苦しい」
…など、多種多様な原因があります。
こうしてみると、「自分の身には関係ないこと」と思えてしまいますが、実はそうではありません。
私たちの暮らす“社会”そのものが、いつ、誰が家賃滞納に陥ってもおかしくない状態にあるからです。
大企業でも安定しない!日本経済の変化
太田垣氏が指摘する「時代の変化」の一つが、バブル崩壊以降の日本の経済・雇用情勢の変化です。
かつては「一億総中流社会」と言われた時代がありました。誰もが当たり前のように家や車を買い、定年まで安定した収入が得られ、退職金と年金で老後も安心…そんな“当たり前”は、今の時代はもう通用しなくなっています。
大企業でも倒産する時代です。リストラも珍しくありません。年金もどんどん減っています。
こうした現代に生きる私たちに、太田垣氏は警鐘を鳴らします。
「それでも国民の多くは、自分が貧困と紙一重のところにいるとは思っていません。」(P24)
ハッとさせられる一文です。
今、どんなに苦労のない暮らしをしている人でも、いつ“貧困”に陥るか分からない…今はまさに、そうした時代です。
実質賃金は下がっているが、家賃の相場は高くなっている
太田垣氏は、本書でこのように指摘しています。
「賃金もあまり上がっていないため、多くの人が問題なく支払える賃金は決して高くないのに、実際には家賃の金額は上昇傾向にあるのです。」(P121)
これは、高スペックな賃貸住宅が増えているためです。
空室を恐れる家主が、より高い収益を求めて、立て替えやリフォーム、リノベーションを積極的に行います。キレイで新しく、機能的になった物件は、当然、家賃も高くなります。
こうした流れの結果、家賃相場が高騰し、安い物件が見つからない、「やむなく身の丈以上の部屋を借りるしかない」…こうなってしまう可能性があります。
家賃保証会社により、身の丈を越えた物件が簡単に借りられる
実質賃金は下がっているのに、家賃相場は上昇している…そのため、「自分の収入に合った部屋を借りたい」と思っても、安い部屋が見つからない可能性があります。
さらに、家賃債務保証会社の登場により、「身の丈を越えた物件が簡単に借りられるようになった」とも、著者・太田垣氏は指摘します。
現在では、賃貸物件を借りる際、「家賃債務保証会社の利用必須」となるケースが増えています。これは、連帯保証人がいない・頼めない…という人には、非常に助かる仕組みです。
しかし一方で、
「身の丈以上の(※自分の収入に見合わない家賃の)物件であっても、家賃保証会社の審査に通ってしまったら、払える気になってしまう」(P117)
といった心理的なハードルの低さもあり、収入に合わない、高い部屋を借りてしまう人も多いということです。
サラ金、カードローン…気軽な借金が負担になり、家賃滞納につながるケースも
本書では、サラ金やカードローンなど、借金との関連も指摘されています。
現代では、消費者金融や銀行カードローンなど、気軽に借りれるサービスが普及しています。
しかし、気軽に借りたはずの借金も、返済がつらくなってしまうことは、珍しくありません。
「消費者金融の返済のお金を作るために、家賃を滞納するようになった」という事例も、本書の中で紹介されています(P30)。
「借金を返すために家賃滞納」というケースもあれば、その逆もあるでしょう。「家賃が払えず、お金を工面するために借金を繰り返す」といったケースです。
「家賃が払えない」と「借金が返せない」は、とても大きな関連があるとわかります。
東京簡裁だけでも、1日100件以上の「借金がらみの裁判」が行われている
「借金が返せない」「家賃が払えない」
こうした時に、督促状や催告書が届くようになります。
「このままだと法的措置になる」といった予告もされるでしょう。
「どうせ裁判にはならない、無視していよう」と思う人もいるようですが、それは明確な誤りです。
この「家賃滞納という貧困」の中で、著者・太田垣司法書士は、読者にこう問いかけます。
「日本の裁判所で、一日に消費者金融を含めた金銭がらみの裁判が、いったい何件なされているのかご存知ですか?」(P120)
その答えは、東京簡裁だけでも1日100件以上。全国で見れば、「気が遠くなるような数」とのことです。
感想:家賃が払えない…強制退去も“他人ごと”ではない
最後に、本書を読んだ感想をまとめていきます。
家賃が払えない、お金が無い…。
こうした悩みは、貧困状態にある人だけの問題ではありません。誰もが、いつ「家賃が払えない」となってもおかしくない…肌身に染みるように、そう思える一冊です。
家賃滞納トラブルの現場に立ち続ける、太田垣司法書士の言葉だからこそ、よりしっかりと響きます。
普通の暮らしをしていた人、普通以上の収入を得ていた人が、家賃滞納、そして強制退去に…。そうした事例を、太田垣氏は、実際に目の当たりにしてきたのでしょう。
そのリアリティが、「他人ごとではない」というメッセージを、より強く伝えています。
賃貸生活をしている人、これから賃貸物件を借りようと思っている人なら、誰もが一読する価値のある良書だと感じました。
「わたしは大丈夫」
「自分の身には、家賃や借金のトラブルなんて起きない」
そう考えていた人が、実際に家賃滞納、借金苦、そして強制執行…と至ってしまう事例が、現実にいくつも生じています。
誰もが他人事ではありません。
だからこそ、いざという時のために、今のうちから備えておきたいものです。
次のページで、借金や滞納家賃を減額・免除する手続きについて、解説しています。
「いざという時、自分の返済がどのくらい減らせるのか」を知っておくだけでも、大きな備えになります。
もちろん、今すでに滞納の危機にある人は、急いでこうした減額・免除を検討しましょう。
脚注、参考資料
- [1]「家賃滞納という貧困」(ポプラ社、太田垣章子) ISBN-10: 4591162095,ISBN-13: 978-4591162095